ほっこりメモランダム

日々のちょっとしたほっこりをつづれたらいいかな。

においの記憶

ここしばらく、かないが糠漬けをつけていて、ほぼ毎朝食卓に上る。

かないが糠漬けをするのはこれが初めてではない。何度かしていた記憶があるが、それほど長続きはしなかった(と、思う)。今回はなんとなく以前の時より自分もいただくのを楽しんでいる気がする。

昨日の朝、食卓に近づくときゅうりの新鮮な香りがフワーっと私の鼻をついた。とたんに、「爽やかな夏」が私の頭をよぎった。何かビジュアル的なものが頭に浮かんだわけでもないし、その文字列が思考されたわけでもない。頭の奥底に刷り込まれている記憶が表層に浮かんできたというか、いま文章を書いていて、それをあえて文字にするとそうなるということだと思う。

におい、っていうものは、このIT全盛の時代になっても、なかなかバーチャルの世界では再現が難しいものだろう、と勝手に思っている。

なんとなく想像するに、おそらくデータ化は技術的にも十分進んでいるのだろうが、データからのにおいを復元する仕掛けを準備のは難儀なんだろうし、例えそうした装置ができたとしても、においってそれだけではなくてそのにおいを発する物体の温度(例えば体温)や周りの空気の状況(温度だったり湿度だったり)で、伝わり方や感じ方が違うような気がするからだ。

実際、さっきのきゅうりのにおいの記憶が、夏の爽やかな空気感と一緒になっているように、自分の好きなにおいも、そうした過去とリンクしている。

例えば、私は緑の木々のにおいが好きだが、これを感じるたびに小学生時代の蓼科でのキャンプの記憶が頭になんとなく浮かんでいる。と言っても具体的な記憶ではない。そのキャンプは、私の人生で初めて家族と離れて一人で旅行社の団体ツアーとして行ったもので、街育ちの私には初めて嗅いだ濃くて深い木々のにおいだった。このときの記憶が、初めてのキャンプファイヤーの経験などの楽しかったことだけでなく、知らない子供ばかりと一緒だった心細さとか、帰りのバスの中で車酔いして嘔吐してしまったこととかまで、なんというかそういう全部が塊として頭に意識される感じとでも言おうか。その懐かしさみたいなものが、そのにおいを感じたときにほっこりさせてくれるのだと思う。

きっと誰にでもそんな記憶をつれてくるにおいがあるのだろう。